「黒澤明が最後に撮りたかったのはラブ・ストーリーだった」
こんなキャッチコピーで紹介されている本作は、故・黒澤監督が脚本を担当し、撮影寸前までいきながら、製作費等の関係で断念した幻の作品だとか。原作は、山本周五郎の「なんの花か薫る」と「つゆのひぬま」。黒澤監督と生前、親交の深かった熊井啓監督がメガホンをとっています。
舞台は、江戸・深川の岡場所。岡場所というのは幕府非公認の私娼地のこと。深川は、吉原などの幕府公認の遊郭に比べればちょっと格は落ちるものの、粋な江戸っ子たちの集まる、庶民的な街として描かれています。
女郎宿「葦の屋」で働く若い遊女、お新(遠野凪子)。ある晩、彼女は、喧嘩の末に人を斬って逃げてきた若侍、房之助(吉岡秀隆)をかくまう。房之助はその後も度々お新のもとを訪れるようになるが、侍という相手の身分と、遊女である自分の立場を思うと、お新は房之助に対する愛情を素直に表現することが出来ない。
「そんな商売をしていても、キッパリやめれば汚れた体も綺麗になる」
房之助の言葉に感動するお新。しかし、遊女の恋の結末はあまりに残酷だ。
お新の恋は夏の花火よりもあっけなく散ってしまう。
ようやく立ち直ったお新のもとに現れたのは、寡黙な青年、良助(永瀬正敏)。不幸な生い立ちから自暴自棄になってしまったこの男に、お新は同情し惚れてしまう。姐さんの菊乃(清水美砂)は、「そんな男はヒモになるのがオチだ」とさとすが、お新の心には届かない。
ある日、雷鳴の轟音と共に嵐がやってくる。川は溢れ、海では高潮が発生し、深川の街は水の中に沈んでいく。逃げ場を失ったお新と菊乃。そして、その時良助と菊乃のとった行動――。
せつなくも美しい物語です。
主人公が遊女である以上、彼女達の不幸な境遇は前提としてあるわけですが、この映画ではそういった暗い部分はサラリと流し、江戸っ子ならではの義理人情や、気風(きっぷ)の良さといった、「粋な」部分にスポットライトを当てています。
また、私娼地というと現代では性的なイメージしか浮かんできませんが、江戸の男達は一味違う。遊女相手に静かに酒を飲む者あり、三味線の音色でバカ騒ぎする者あり。そこには江戸ならではのダンディズムがあるのです。
話としては面白いのですが、全体的な色使いやセットなどでもう少し江戸の雰囲気を出せたらもっと良くなるのになあ、というのが率直な感想。どことなく安っぽさがにじみ出てしまうんですよねえ。そこがちょっぴり残念でした。
Text by じょん
(2002年メルマガ収録)
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