会社で同期の山田に最近子どもが生まれた。バーボンとサルサを愛し、万年青年のような風貌の彼もいまや父親。なんだか信じられない感じがする。
入社当時、一緒に酒を飲むたびに山田はこんなことを言っていた。
「気にくわないことがあったら、会社なんかいつでも辞めてやるよ、オレは」
何より自由を愛する男なのだ。しかし、子どもができた今では、
「もう辞めらんないよな、ハハ・・・」
と力なく笑ったりするのである。
山田に限らず、「生活」にしばられて息苦しい思いをしている「お父さん」はけっこう多いにちがいない。子どもの教育費、マンションのローン、老後の備え・・・心配ごとはあまりにも多い。全部ほうり捨てて、新しい人生を生き直してみたい――ときにはそんなことを考えてもバチは当たらないと思う。
そんな若いお父さんたちにオススメしたいのが、今回紹介する『過去のない男』。暴漢に襲われて過去の記憶をなくした中年男が、新しい人生をスタートさせる物語だ。
舞台はフィンランドの首都ヘルシンキ。記憶喪失になった「男」(マルック・ペルトラ)はどうやら旅の途中だったらしいのだが、持っていた荷物のなかには素性を知る手がかりはまったくない。途方にくれた「男」は、まわりの人々の手助けで港の近くに廃棄されているコンテナ車に住みつく。
極貧のくらし。ヘルシンキの貧しい界隈の荒涼とした風景。いかにもミジメで気が重くなりそうだが、不思議とそんな感じはしない。どこか「おとぎ話」のような印象を受ける。なぜか――。
おとぎ話の登場人物はいつも物語上の自分の役割を確信し、迷うことはない。例えばの話、鬼退治に行こうかどうか悩む桃太郎や、王子様と結婚すべきか迷うシンデレラはいないでしょ? だから子どもでも安心して読める。
この「男」も、そんなおとぎ話の登場人物たちと同じなのだ。泣き言を言わずに「記憶喪失の男」という自分の運命をいさぎよく引き受けている。ほかの登場人物たちもそう。みんなビンボーなのに、自分の境遇を嘆きも恨みもしない。
都市部の貧困を背景に、リアルでうす汚れたかっこうをした「おとぎ話」の登場人物が動き回る――この奇妙なテイストは魅惑的。作品を大人の鑑賞に耐えうるおとぎ話にしている。
やがて、「男」は救世軍ボランティアの中年女性・イルマ(カティ・オウティネン)と恋に落ちる。
イルマは見るからに愛想のなさそうなくたびれたオバさんで、恋愛経験はまったくない。「男」のほうも半分ホームレスみたいなムサくるしいかっこうである。ロマンチックな要素はゼロ。
なのに、2人の恋は意外なほどにスガスガしい。恋愛経験を忘れてしまった「男」と恋愛経験ゼロの女の恋は、まるで中学生の初恋のようにウブなのだ。思わず微笑ましくなってくる。
イルマと「男」の幸せな結末には、生活に疲れたお父さんがたもちょっとホンワカとした気分にさせられるはず。――さ、明日もがんばりますか! なあ、山田。
Text by 輝
(2003年メルマガ収録)
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